読んだやつ

第三部あたりからいきなり面白く感じ始めた。やはり破局とそれに伴う壊滅の物語は楽しい。第二部までは理想を現実のものにしようと果たせぬ努力を尽くし田舎の俗物共にウンザリさせられるような、所謂積み上げの展開で、これが私には長かった。
解説を読むにフローベールの技法による心理描写が第二部までに既に出ているらしいが、読み手の力量不足で全く読み取れなかった。物語からはスペクタクルしか読み取れない。

『うんこの博物学』由来。ずっとシモの話が続き、まったくどういう顔をして読めばよいのかわからない。特に衛生的な側面では(理屈は解るという場面は有るにせよ)最後までわかりかねた。両親の関係と神への視点と性愛への連絡みたいなところで少々『ニンフォマニアック』と同じような印象をおぼえた。解説がけっこう良く中身の説明をしてくれていて有り難い。物語上の妙がある物語というよりは観点や価値観に衝撃を与える類の物語で、この揺さぶりが面白い、そんな小説。

泥酔して襲撃した友人宅の本棚から強奪してきたやつ。返さないと。そして読んだやつと表紙が違う。
狡猾な「捕食動物」を手懐けようとしたら喰い殺されたというオハナシを捕食動物側の目線で展開したようなもの。ただ捕食動物が今回殺したのは実は同輩だったと後から気付いてしまい、けれどもわたしも生きないといけないし、いろいろと薄まってゆく。
こねるだけの粘土でしかないが型を拒絶する粘土であると自身を形容する独白が印象に残った。

たぶん飲み友達とナチスドイツの話をしてたときに薦められたような、そうでもないような。
物語後半でドイツ側の主人公周辺の女性陣が WWII 最期のベルリンに飛ばされた時点でこの本は軽い読み物ではなくなってしまった。今思うと何らかの供物的な描写だったかもしれない。そしてベルリンの描写自体は薄い。このへんは本筋ではないのでまあいい。ほかにも考証にはてなと思う箇所がいくつかある*1*2が、キビキビ進む物語で読んでて面白い。脱出や逃避や転戦の末に同じ舞台に役者が揃い、そして皆さん退場したり地獄をみたり辛酸を嘗めたりする。痛みながら戦後を生きてゆく。読み終えたあと実にしんみりとした気分になった。手元にドビュッシーの音源があったらよかったのになと思った。

坂口安吾の『教祖の文学』がけっこう好きで、いつか小林秀雄を読んでみたいと思っていた。
教祖〜で安吾は小林秀雄が歴史の蓄積からくるものしか見なくなったらしいことを批判していた。この選集の中にある西行や実朝に関しての評論はそうかもしれないが、作品とそこに込められた思想「だけ」を扱っていたか、そうではないと思う。教祖〜が書かれた時期と照らしていないので詳しいことは言えないが、そういう批判に対しての回答が表題の『モオツァルト』だったりするのかしらん。モーツァルトの境遇や作品に乗じて小林秀雄自身の思想や思考もつらつらと述べられていて、この作品については小説のような趣きがあり、読んでいて面白かった。もっともつらつら書くみたいなものが安吾の言う「人間の実相」みたいな意味で槍玉に上がっていたのかもしれないなとも思う。
読んだ中では『骨董』と『真贋』が好き。骨董も歴史の蓄積ではあるかもしれないが、文学は時代から切り離される場合が有りつつも人間の生活の実用に存在する上では生きている骨董というものは「人間の実相」に近いんじゃないかな、よって骨董趣味は別に否定されるものでもないのではと感じた。……が別に文学だって時代から切り離されず人間の生活の実用に今も堪え続けるものはあるわけで(方丈記とかそうだと思う)、骨董の弁解にはならんな。
観たやつ

『普通の奴らは皆殺し』由来。観た直後のメモには「ハイソな人類補完計画」とか書いてあるのだが、さすがにこれは違うだろう。ハイソサエティであれば誰が誰であろうとどうでもいい、気にしてない、これくらいの印象。たしかに『ファイト・クラブ』と関連付けられて評価されるだろうな。ただしこちらは匿名性というか個人の埋没によって個人が空虚さに狂ってゆくほうを描いている。ファイト・クラブにある集団側の狂気(というほど発狂していない感じはするのだが)とは趣きが異なる。

北野武名義ではなくビートたけし名義だったので、つまりそういうことだった。北野武名義の映画と勘違いしてずっと観てしまい、これコントじゃねえか、どうしたんだと思っていたら、コントだった。皆さん笑いながらコントを演じておられ、こっちをやりたいが為の前フリだったんだろうな。

MGS2 のイメージソースということでずっと観たかった。観た。MGS2 のほうが物語としても好き。
主人公がほぼ唐突に(と思うのだが段階が実は有ったのだろうか? 煙草をねだられるところが前フリだったりする?)仇役の伴侶を好きになっていて、権威批判の裏付け(結末に至るまでに散っていった連中への感謝はどうしたよ的なシーン。もっとも主人公の境遇すべてを引っ括めての裏打ちかもしれない)が薄いように感じた。このあたりを踏まえると地獄のようなニューヨークに君臨するボスの描写がとても好き。ほんとうの意味の自由だと思う。いい感じのリズムを奏でる曲と共にマッドマックス的な飾り付けのなされたキャデラック(じゃないかもしれない。アメ車よく知らない)がスルスル出てくるシーンが妙に印象に残っていて、今でも時々思い出す。