``一意な文字列''

雑多な事柄

読んだり観たりしたもの (2024-02)

もう増えないので書く。課題消化の一ヶ月だった。そのわりにはあんまり読めてない。

読んだもの

文学部唯野教授 (岩波現代文庫)
課題図書。面白かった。もうちょっと早くに読んでおけばよかったと思うが、学生時代に読んでいたら妙な勘違いをしてしまったと思うので、労働生活に入ってから読むのが良さそう(労働生活に入るということの是非はここでは考えない)。
これを読むことで課題図書がベラボウに増えてゆく臭いがしたのだが、初手のマックス・ウェーバーが古本のかなり古い訳のやつしかなかったので、その臭いは立ち消えることになった。助かったのか、損をしたのか、よくわからない。

観たもの

ブリキの太鼓 [ディレクターズ・カット版] (字幕版)
SA と SS と国防軍との制服が混同されていた。それはともかく、ずっと課題映画だったので、やっと観れて嬉しい。

性と政治とを延々やっている人々(大人)を部外者(子供;ただしエクスキューズ付き)が見ていてたまに台無しにする、しかし個人の台無しスキルは戦争に至ると暴力性を発揮できず、性と政治とを延々やっている人々の世界に入ってそいつらと同じことをする羽目になる。
登場人物の感情の変動がだいたいセックスで上塗りされるみたいなすごい描かれ方をしていて、これきっと人間嫌いの人が物語を書いたんだろうなと思った。本当かどうかは原作を読まねばなるまい。
最後のオスカル「少年」が自立(とまでは作中では言っていないが、ほぼそうだろう)を志すシーンは中々キモく、もう誰も俺のことを世話してくれねえんだもん、仕方無えや、といったもので、いやしかし自立とはそういった状況に至って仕方無くなされるような気もし、つまり大方の自立というものはキモい(なんかすごいことを書いてしまったような気がしてきた)。ただし自立を志せるだけマトモなのかもしれない。

なお小説のほうも課題図書なのだが絶版だったように思う、が、今調べたら普通に売ってた。そのうち読む。


ディパーテッド (字幕版)
原作を同じくする本邦の地上波ドラマ版を先に観てしまっていて、同じ描写があるということはこれは原作のほうでもあったんだなあ、みたいな振り返り的な見方をしてしまった。先にこっちを観ていたらきっと感想も変わったろう。
結末は本邦ドラマ版のほうが私的に好み。救われないまま長く苦しんで生きろというオチと解釈している為。こちらの場合は罪は罰せられた的な感じになってしまっていて、終わり方が綺麗すぎると思う。

読んだもの (2024-01)

裸はいつから恥ずかしくなったか ──「裸体」の日本近代史 (ちくま文庫)
近代化によってひとつの風俗が失われたが別の方面から回復しつつある、といった感じか。制度はナマモノではあるがナマモノ長じると規範になり、規範には強度がある。しかし硬いものは案外脆いものだ。そういったことが書いてあったかしら。然りと思う。

人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス)
気候変動というやつについて何らかの知識を持っておきたくて。といって巷の話題のそれとは異なり、地球の「気候」というのは安定には程遠く、むしろ激変の連続で、今この数世紀は落ち着いているほうだ、というもの。だからと言って今この時代の気候変動というやつは人類史に鑑みては落ち着いているほうだが、時代の当事者として生きる立場としては雨は多いし暑いしで困るわけだ。
エピローグにあった平和な世界ではうだつが上がらない感じの人々が戦争や地震の混沌の中で力を発揮したエピソードがかなり好き。これは本筋とはあまり関係無い。

津波――暴威の歴史と防災の科学
買って2ヶ月くらい積んでいたらタイムリーな状態になってしまった。これは悲しむべき状況ではある。
古今東西津波の事例集といった感じだった。繰り返し特定の地域で起きるものもあり、偶発的に起きるものもあり、予知にコストを割くことで防災の功績ができているものもあり、そうでないものあり、良くも悪くも文明が津波に対し何が出来るかといったことを並べていた。曰く、とにかく速やかに逃げろ。これをやるために教育があり、技術がある。

浮雲 (新潮文庫)
ボロボロになった〆にゾラの『居酒屋』を出してくるのはモチーフが強すぎる。

読んだもの (2023-12)

ぬるい眠り (新潮文庫)
『災難の顛末』と『清水夫妻』が好き。どちらもオチが自分本位なところに行き着くからで、我が身や振舞いを省み寒気がするからだ。

日本以外全部沈没 パニック短篇集 (角川文庫)
買ったやつと表紙が違う。『新宿祭』が一番好き。新宿騒乱が新宿ソーラン(節)になってしまうのがよい。

蛇にピアス (集英社文庫)
村上龍っぽいなあと思いながら読んでたら解説が村上龍だったので笑った。

超動く家にて (創元SF文庫)
トランジスタ技術の圧縮』で泣きそうになった。疲れてたんだと思う。あとは『アニマとエーファ』が好き。

シビリアンの戦争――デモクラシーが攻撃的になるとき
面白かった。劇パト2の理論的背景になれるような感じがする。

読んだり観たりしたもの (2023-11)

読んだもの

未来からのホットライン (創元SF文庫)
過去へメッセージを送るための理屈とその結果が物語のミソで、他のナラティブなところは物語を物語とするためのウワモノでしかないような気がした。
しかし娑婆で起きた問題は「ホットライン」の成果によって無かったことになる一方ナラティブな中の個人の物語はその根っこのところが変化しないという位置付けで、ほろりとさせられた。
こういうのが好きなのは弱さのひとつな感じがしていて、あまり良い気分にならない。なぜならこの後に『プラットフォーム』に関する話をつい続けそうになるからだ。

神の子どもたちはみな踊る(新潮文庫)
『かえるくん、東京を救う』をいつか読みたいとずっと思っていて、とうとう読んだ。かなり良かった。
全体的に喪失(しつつある、した、しなかった)についての物語集だった。近畿が滅茶苦茶になった震災のあとでこうまで個人的な類の喪失を描けるとは。今まで読んできた村上春樹の本の中で一番好きかもしれない。

情事の終り (新潮文庫)
『東京タワー』つながり。ベンドリクスの一人称から手紙文の形態に変わるあたりの描写を完全に泥酔していた時期に読んでしまったせいで憎しみ合いらしきものが愛し合いとすれ違いだったとわかる肝心の時期がスッパリと抜け落ちてしまい、文脈がよくわからなくなってしまった。読み手の問題である。
羨望と理不尽と偶然(奇跡と書くのはこの物語としては駄目だろう)とが神性に代理されていて、神性に対する嘆き、怒り、呆れ、嫌悪、ひととおりの対「人」コミュニケーションをとってみた、そんな感じに読んだ。

神様のボート (新潮文庫)

わたしに江國香織を教えてくれた友人がこの人の物語では人死にはあんまり無いみたいなことを言っていたのだが、これは自殺エンドになるんじゃないかと読んでて終始ヒヤヒヤした。結局そうではなさそうなのでよかった。
夢のような現実があり、その現実とは違った現実を歩み出してゆく人もいれば、夢のような現実に取り残されてしまう人もある。夢のような現実にずっと居れたらよいのにな。それは安吾の語法でいう淪落だが、淪落に居たいときもある。

スマートモビリティ時代の地域とクルマ: 社会工学アプローチによる課題解決
どこかの会社の技術ブログか何かで都道府県のヘソみたいな位置にある街を導出するといった記事(詳細忘れたので全部曖昧だ)があり、これはおもしろい話題だなあと読んだところでこの本の宣伝になれば云々とあったので読んだ。予想に反して論文集のような感じだったが面白かった。

観たもの

マッシュ [Blu-ray]
有能な厄介者たちの青春劇といった感じか。朝鮮戦争を舞台にする必然性は無いなと思った。肝心の "fuck" がどこで出て来たのかはわたしの英語の能力では判らずじまいだった。

movies.kadokawa.co.jp
映画館で観てきた。人間の生命の価値がどうしようもなく低い世界で特定の人々の生き様や死に様を描くのに北野武は特化しているのだろうなと思った。そういった描写はピカイチだが他の箇所では首を捻らざるを得ず、この映画は後者のほうが多かったせいで、正直微妙な映画だった。

読んだもの (2023-10)

ブラッドランド 上 ――ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実 (ちくま学芸文庫 ス-29-1)
ブラッドランド 下 ――ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実 (ちくま学芸文庫 ス-29-2)
ずいぶん前に本屋でハードカバーのものを見、いつか読みたいなと思っていたもの。文庫になったことに気付いたので読んだ。当然のように凄惨な気分になる本である。システマチックに人間を大量死させるパイオニアボリシェヴィキだった点とそれを踏襲したナチスのやりかたはかなりアドホックだったというのは学びだった。前者は薄ら知っていたが、相当に体系的なやりかたをしていたというのは今回はじめて知った。知って何が嬉しいかと言われると非常に微妙なのだが。

2020年代の想像力 文化時評アーカイブス2021-2023 (ハヤカワ新書)
面白かった。仮面ライダー関連で突然早口オタクみたいな語りになるので笑ってしまい、文章の端々で劇パト2の引用がなされるために再び笑ってしまった。終始笑いながら読んでいた。面白い文章はよい逃避になり、人生を豊かにする。

【電子特別版】スタジオジブリ物語 (集英社新書)
リンク的には電子版なのだが紙の本で読んだ。ジブリ宮崎駿高畑勲だと思っていたのだが、結構色々な人々がジブリ作品の監督をやっていたのだということを初めて知った。その程度のジブリに関しての知識しかなかったのだ。宮崎 / 高畑周辺の内容はそこまで目新しいものは無かったが、紅の豚がユーゴ紛争(を宮崎駿が深刻に捉えた為)の影響で混迷しかけたというのは知らなかった。

東京タワー (新潮文庫)
清潔と軽薄とによる恋の対比。こういう物語は人死にが出るという先入観があるのだが、誰も死ななかったので、そういう世界観もあるよね、という気持ちになった。ラストが『ゴリオ爺さん』のような感じ(状況ではなく台詞がそんな感じがした)の不穏な兆しを感じる終わり方で、なんともいえない味わいがあった。

遅いインターネット (幻冬舎文庫)
文庫化待ってました。ありがとうございます。疫病の章までは面白かった。疫病の章は混沌の厳然にうろたえ、素直な事を述べており、この意味で他の章とは異なり「普通」の章だった。他の章はどうかというとこれは『なめらかな社会とその敵』が思想的な背景にありそうだと感じた(参考文献にこれが有るかは確認していない)。

読んだり観たりしたもの (2023-09)

あまり新しい本を読めなかった一ヶ月だった。事ある毎に泥酔していた為だと思う。泥酔している時は馴染みの本ばかりを読んでしまう。泥酔しているというのは正常な状況ではないので、状況との均衡をとるために馴染みの本を手に取ってしまうのだろう。

読んだもの

ガダラの豚 I (集英社文庫) ガダラの豚 II (集英社文庫) ガダラの豚 III (集英社文庫)

面白かった。一気読みした。緩急のうまさが読み易さとおもしろさに繋がっているのだと思う。この人はどうしても関西の言葉を登場人物に喋らせたいのだな。一巻目まではドラマの『トリック』を見ているような気分になっていたが、その後そのような雰囲気が薄くなり、不気味で恐しいものとの戦闘になっていった。作中の進行と同様に妙な暗示を掛けられているようで怖かった。ドタバタ劇で終わるのかと思っていたら集団ヒステリに陥り全てが自分達を殺しにやってくるといった境遇からの脱出みたいな凄まじいものになり、ユーモアがありつつも陰惨だった。アル中描写がまだカリカチュアなのは氏がまだ酒を飲めていた頃だったからかなと思ったが、刊行年を見たら『今夜、すべてのバーで』より後だったので、リハビリか憧憬といった感じだったのかもしれない。

観たもの

ナチュラル・ボーン・キラーズ ディレクターズカット (字幕版)

ずっと観たかったやつをやっと観た。終盤の暴動のシーンはかなりよかった。イデオローグに踊らされて狂気に陥る人々とそんな人々によってイデオローグにされる殺人者、ぜんぶを茶化すメディア、といった感じか。グロテスクな映画だった。登場人物がほとんど皆エキセントリックな感じなので観てて疲れる映画でもあった。公権力側がみんな発狂気味なのは監督の趣味かもしれない。刑務所長はかなり好きなタイプだ。

読んだもの (2023-08)

書いててハーモニーに言及しすぎだと思った。原風景が透けて見えるね。

われら (岩波文庫)
読んでいる端から目が滑っていってしまった。酒飲みすぎてとうとう頭がおかしくなったのかと思った。要素要素で『ハーモニー』の技術的な元ネタのようなものが出て来、伊藤計劃は勤勉だなあと思った。『素晴しき新世界』と比較されることが多いらしいが、読んだの相当前なのでもうあまり記憶がない。封じ込めていた野蛮が正常な世界に滲出してくるみたいなのは確かにそうかも。

花ざかりの森・憂国 (新潮文庫)
憂国』が読みたくてずっと狙っていた。買った。読んだ。かなりよかった。あとは卵に裁かれかける不良大学生達のファルスが好き。作品名忘れた。

きらきらひかる (新潮文庫)
友人に薦められて (1/3)。傷のある者たちのいたわりあいの物語だと思った。いたわりが丁寧すぎると攻撃されているように思えるのはよくわかる。真綿でも首は締まるのだ。

正欲(新潮文庫)
友人に薦められて (2/3)。現代社会のスナップショットのようだった序盤を読んで読むの止めようかと思った(わたしは読書を逃避の手段だとおもっているので逃避先に逃避したい内容があるのが非常に苦痛なのだ)が、『ハーモニー』みたいになってきた中盤くらいからのめり込んでしまい、終盤で突き落とされて呆然とした。
わたしは「正欲」(これフロイトの用語なのね)の議論に加わることを望まない。ゆえに何も言わない。逃避というのは現実的な解だと固く信じているが、何も解決しないこともわかっている。確定したものなどなく、浮動し、妥協の成すものにしておくのがよい。しかしこの本でマジョリティとされる側にわたしはおり、その時点で「正欲」の議論に巻き込まれているとも思う。ダラダラ書いてしまっていてよくない。考え続けることを要求される物語だと思った。

彼女は頭が悪いから (文春文庫)
友人に薦められて (3/3)。安吾に狂って「涅槃大学校」、ではないか、印度哲学科じゃないし、ともかく安吾と同じ大学に進んだ学生のシーンでひととおり笑った。これがこの物語の唯一の愉快なところで、あとはもう胸糞悪い物語で胃もたれした。何が胸糞悪いかというと読み手の(アレント的価値観でいう)アイヒマン性をほじくってくるからだ。身が引き締まる思いをした。
なお安吾安吾たらしめたのは矢田津世子と戦争であって大学ではないんじゃないかと思ったが、とうの学生はプラグマティックな動機で進路を決定したので、安吾の読者だなあと思った。妙な感想になってしまった。