``一意な文字列''

雑多な事柄

読んだり観たりしたもの (2020-12)

読んだもの

JR上野駅公園口 (河出文庫)
題名から漂うしょっぱさに我慢ができず読んだ。予想通りのしょっぱさだった。が思想性の強い作品で、物語が思想に負けている感がどうしても否めない。思想の強さそのものに物語性があり、その意味では骨太。

他人の顔 (新潮文庫)
劇中作の映画のシーンが単純に綺麗だと思ってしまった。悲惨な情景ではあるのだが。自分で思うことと他人がどう感じるかは当然違い、仮面に期待することも自分と他人とで違い、見え方も異なる。独善的であることは何も救いにならん。ラストは主人公の逆切れなように感じた。

燃えつきた地図 (新潮文庫)
買ったのは新潮文庫だが表紙が違う。まあそれはともかく。
主人公が途中から夢の中に迷ったのか本当に記憶を喪失したのか文面から読み取れず困ってしまった。どこかわけのわからんところに迷ってしまった感はあった。失踪というか意図して消えたというよりは自分が判らなくなってしまった、という感じか。自分を忘れられる、消滅させられるというのは魅力的ではあるが、それは消滅以前に戻れることを前提にした魅力であり、不可逆だと死に等しい。死は終わるが、消滅だけだと生ける屍と化す。怖い。

SS戦車隊〈上〉
大日本絵画系の本(具体的にはモリナガ・ヨウ宮崎駿)の元ネタを知ることができて大変有意義だった。戦闘にはかろうじて勝っていたりするかもしれないが戦争には負けている軍隊における現場の苦闘の数々。

観たもの

あの夏、いちばん静かな海。 [Blu-ray]
綺麗。ちょっと綺麗すぎたかも。監督間違ってないよなとパッケージ5回くらい見直した。

ラブ&ポップ

式日
『ラブ&ポップ』ほどのブッ飛んだ感じが映像になく、秀作ではあるがなんだか微妙に感じてしまった。庵野秀明村上龍の組み合わせが完璧すぎていたのかもしれない。
虚構と現実との対比と現実への帰還。虚構は自分で筋書を決めるので「未定」は有り得ず、彼と彼女とは戻ってきた現実の中で生きてゆくのだろう。
このブログの元ネタとして使っているメモ帳には感想としてエヴァ旧劇のセルフオマージュじゃねえか(要約)というものが書かれていたが、感想としてあまり面白くないので割愛する。

読んだり観たりしたもの (2020-11)

まだ1日あるが変化しないとみられるのでもう書く。

読んだもの

ナナ (新潮文庫)
最後のふたつの章で今までの登場人物が全部始末されてゆくのが圧巻だった。ここまでやってオチをどうするんだろうと怖くなったが、やっぱり死だったか。

シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選 (竹書房新書)
アレクサンドリアを焼く』と『夜の似合う場所』が好き。後者は後味の悪さというか選択の気持ち悪さが格別だった。以下のような感想をもったのだが、ほんとうにそういう物語がナウシカなのかはわからない(最終巻のシュワのあたりの話をねじまげた印象になっている気はする)。

実際のところナチの収容所ないし中東戦争あたりを題材にとった物語を期待していたのだが、前者については想像力が勝てるものではなく、フランクルを読んだほうがよい。後者はわからない。

砂の女 (新潮文庫)
延々と始末を続けないといけない砂のなかにはわたしもいる。絡みついて離さないほうの砂はまだお世話になっていない。後者の割合が大きくなる中盤くらいで描写がいきなり緻密になるのはだいぶ面白かった。

二十歳の原点 (新潮文庫)
若者が自分の死の接近につれて言語感覚や感性が鋭くなってゆく様がここにもあった。『きけわだつみのこえ』と同じなので私的に「わだつみ効果」とでも呼びたいものがある。
理想と現実のギャップを埋めるのは難しく、また完全に埋めるのはほとんど困難である。他人や周囲や理想と自身の現状とのギャップやズレとの格闘を続け、彼女は勝てなかった。勝てるものでもない。負けぬように格闘を続けることを強いられるものなのだ。これは安吾の受け売り。
太宰評と飲酒に対しての態度がとても好き。

観たもの

現金に体を張れ スタンリー・キューブリック Blu-ray
先月観たのだが書いてなかったので。『博士の異常な愛情』のリッパー将軍がマトモだ!!! と感じてしまった以外にあまり印象がない。『博士の異常な愛情』よりも前に観るべきだった。

ニュー・シネマ・パラダイス (字幕版)
血生臭くないタランティーノという感じがした。ワンハリとほとんと同じテーマだと思う。ワンハリから史実への復讐を無くせばこれになる。

読んだり観たりしたもの (2020-10)

読んだもの

お目出たき人 (新潮文庫)
計画を立てているときが一番楽しい。

居酒屋 (新潮文庫)
飲酒を扱う物語ではじめて酒を飲みたくなくなった。不穏な展開が全部不穏に進行して何も救われず破滅に行き着いてしまう。報われる要素も一切無い。マトモでいたいときに読むとよいと思う。

観たもの

3-4x10月 [Blu-ray]
沖縄に飛ぶまではうだつの上がらない青年の成長(?)といった感じだったが沖縄に飛んでからはなにもかもフッ飛んで訳がわからない感じになった。無言で暴力が振るわれると怖い。『肉弾』に並んで今年観てよかった作品のひとつになった。

読んだり観たりしたもの (2020-09)

読んだもの

谷間の百合(新潮文庫)
ウエルベック繋がりでバルザックを読んでみたいという話を飲み友達に話したらおすすめされたので。苦難と忍耐とを重ねに重ねて死んでいったかつて愛した人をいつまでも引き摺ってるんじゃないアタシは知らんみたいな最後の手紙で笑ってしまった。突然紙面から手が伸びてきて平手打ちされた気分になった。

ゴリオ爺さん (新潮文庫)
こちらのほうが好き。キリストになりきれなかったご老体とそこから社会という魑魅魍魎に挑まんとする若者の話。
葬儀の時にクリストフがポロリとこぼす一言が『風立ちぬ』(映画のほう。わたしがこれに言及するときはほぼ確実に映画のほう)の黒川夫人が奈緒子との別離でこぼすそれと同じ様相でとてもよかった。

観たもの

独立愚連隊
愉快痛快。新聞記者というのは無理があったんじゃないかなあとは思った。

独立愚連隊西へ
プロフェッショナル(同士)の爽快さと虚栄心の切なさ。

スカーフェイス (字幕版)
全て俺の力でやってきたのだという所感はだいたい妄想。妄想に肉体を与えるのは狂気と暴力。肉体といってもハリボテなのですぐに崩れてしまう。身の詰まった肉体を得るのは難しい。

孤狼の血
白骨死体や水死体や食糞を映像として観せる(観せられる)骨太な映画だった。行動指針に理由付けが与えられてしまうのは物語上仕方無いのだがちょっと不満。広島大卒の役をやっている人の眼が恐しすぎたのだが現代版『日本のいちばん長い日』の畑中少佐役の人だと知って納得。

凶悪
ピエール瀧と同じ画面の中でピエール瀧以上の狂人になってしまえる人がいるのかと感動してしまった。そういえば『SCOOP!』でそういう役をやっていたか。

読んだり観たりしたもの (2020-08)

読んだもの

本棚見てわたしにしては今月結構読んだなとビックリしている。

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

いままでの拒絶か放棄から受容に変化した。どこかの書評で解脱と表現されていた気がするがそこまで立派なものではないと思う。

地図と領土 (ちくま文庫)

静かな物語だった。自分を登場させて言いたいこと言い尽したので自分の事殺したのかなと思ったが以後もウエルベックは続いているのでそんなことはないか。

軍旗はためく下に-増補新版 (中公文庫)

映画は何度も観たが原作は読んだこと無かったので。映画は国家に対するニヒリズムみたいなものがあったがこちらは弱者がひたすら泥を被りまくる苦痛がこれでもかと広げられていた。山本七平を読みたくなる。

小説 天気の子 (角川文庫)

世界と引き換えに失われたものが完全に戻ってくる。それなら世界を投げ捨ててしまえばよい。破壊された世界で戻ってきたものと共に生きてゆこう。

同じく世界を賭したのに失なったものが戻ってくることはなかった『雲のむこう、約束の場所』のほうが500倍は好き(あわせて再読したのでどうしても比較してしまう)。

氷菓 「古典部」シリーズ (角川文庫)

友人に勧められて。省エネを連呼する姿勢がどうしても鼻についてしまったのだがこれは馴れるのだと後の物語で学ぶのだった。周囲の熱におされるまま偶像に成り果て全ての泥を被って消える刹那に洒落を仕込める人間は詩人だ。

愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ (角川文庫)

ひとは観たいものを観て演じたいものを演じる。

クドリャフカの順番 (角川文庫)

今回読んだ「古典部」シリーズの中で一番好き。手の届かない所にいる / あるものへの憧れ、期待、反省、様々な態度が溢れている。それらは手の届かなさを自覚する者だけが血を吐き苦しむ特権であり、ただただ解明するだけの安楽椅子探偵にはその血飛沫の熱を感じることはできない。

遠まわりする雛 「古典部」シリーズ (角川文庫)

箸休めみたいな感じかなと思った。気楽に読んでしまった。だがとあるお話の心情の吐露でこの気楽さは吹き飛んだ。このお話だけは『クドリャフカ〜』と同じくらい好き。よく考えなくてもわたしはこのシリーズをミステリとして読んでいないことがわかる。

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

材料を全て並べ尽した上でイベントの終了を最後まで描かないのは『ボトルネック』っぽくていいなあと思った。

いまさら翼といわれても 「古典部」シリーズ (角川文庫)

これは物語を次の段階へ進める為の清算だと思う。次が楽しみ。省エネ思想に背景が与えられたので『氷菓』も気持ち良く読めると思う。

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

いちおうミステリなやつを読んだ直後に読んだので失踪の解釈に別世界を持ち出すのはダメだろ、と思ってしまった、が別にミステリではないのでそれでもよかったのだった。あちらの世界は捨てざるを得なくなったものの集積場で、生きる以上は捨てなくてはならぬものがどうしても出てしまう。いつかは捨てなくてはならないものをいつまで持っていられるだろうか。

観たもの

肉弾

カッコカッコ言いすぎてどんな数式だったかわからなくなった。ヤケクソの度合いもここまでくると笑うしかなくなってしまう。いつも夏に観る映画は『日本のいちばん長い日』と『激動の昭和史 沖縄決戦』だったのだが、これからはこれも加わった3本を観るようになるだろう。

読んだり観たりしたもの (2020-07)

読んだもの

潮騒 (新潮文庫)

青年団の顔役に主人公の恋人はメチャクチャにされて主人公は仇をとって自殺するんだろうなと思ってたら全く予期しない素敵な終わり方をしてしまい自分の汚さを堪能する破目になった。 ちなみにしばらくの間「ちょうそう」と読んでいたという恥を告白しておく。

プラットフォーム (河出文庫)

飲み友達に勧められて読んだ。大好きになってしまった。 救済がグチャグチャにされて空虚に支配された人間が破滅を選ぶという流れは『虐殺器官』っぽいなと思った。破滅と大袈裟に書いたがこの物語の場合は自分自身の破滅で『虐殺器官』の場合は世界の破滅なのでディテールは違うのだが。

素粒子 (ちくま文庫)

伊藤計劃だったら逆セカイ系とでも言いそう。ブリュノの物語がしょっぱいだけでオチに絡んでこないの悲惨すぎる。

闘争領域の拡大 (河出文庫)

途中まで淡々とした描写が続いてアレッらしくないな(上2作を読んだ時点での印象)と思っていたのだが「闘争領域」の拡大についての考察が始まって以後は切れ味の悪い刃物で何度もぶっ叩かれ続けながら心象が狂っていく感じになっていってすごかった。

ある島の可能性 (河出文庫)

おもしろい物語は平穏な人間を狂わせる。おもしろい物語は時代を超越する。しょっぱさが面白い物語のよい土壌になる。

観たもの

座頭市 [Blu-ray]

病身の妻を連れた浪人に狂人の匂いを感じたので観たのだが別に狂ってはおらずいたわりと暴力とがきちんと分かれて同居していただけだった。

読んだもの (2020-06)

もう今月は増えないと思うので6月終了まで1日強あるが書く。

ペスト(新潮文庫)
時期柄。中世が舞台だと思っていたのだが思いっきり現代(WW2 以後という意味で)が舞台だったのでびっくりした。

皆勤の徒 (創元SF文庫)
横文字を使わず漢字が与える感触だけで SF をやるとこんなにおどろおどろしいものになるのか。と解説を読んで思った。
読んでる途中は『黒死館殺人事件』をグロテスクに煮詰めたらこんなふうになるんだろうかと考えていた。

ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々 (ハヤカワ文庫NF)
言い方が悪いことは自覚しているがサイモン・シンのドキュメンタリー的なおもしろさがあった。昨今の疫病が身体をグチャグチャに「崩壊」させるようなものでなくてよかった……。

銀齢の果て(新潮文庫)
好き。全ての若者達に宣戦布告する、までやってくれるとは思わなかった。満州からの持ち帰り品で武装するのは『オールド・テロリスト』(こっちのほうが新しい作品だが)よろしくお約束の領域なのだな。