読んだり観たりしたもの (2020-09)
読んだもの
ウエルベック繋がりでバルザックを読んでみたいという話を飲み友達に話したらおすすめされたので。苦難と忍耐とを重ねに重ねて死んでいったかつて愛した人をいつまでも引き摺ってるんじゃないアタシは知らんみたいな最後の手紙で笑ってしまった。突然紙面から手が伸びてきて平手打ちされた気分になった。
こちらのほうが好き。キリストになりきれなかったご老体とそこから社会という魑魅魍魎に挑まんとする若者の話。
葬儀の時にクリストフがポロリとこぼす一言が『風立ちぬ』(映画のほう。わたしがこれに言及するときはほぼ確実に映画のほう)の黒川夫人が奈緒子との別離でこぼすそれと同じ様相でとてもよかった。
観たもの
愉快痛快。新聞記者というのは無理があったんじゃないかなあとは思った。
全て俺の力でやってきたのだという所感はだいたい妄想。妄想に肉体を与えるのは狂気と暴力。肉体といってもハリボテなのですぐに崩れてしまう。身の詰まった肉体を得るのは難しい。
白骨死体や水死体や食糞を映像として観せる(観せられる)骨太な映画だった。行動指針に理由付けが与えられてしまうのは物語上仕方無いのだがちょっと不満。広島大卒の役をやっている人の眼が恐しすぎたのだが現代版『日本のいちばん長い日』の畑中少佐役の人だと知って納得。
ピエール瀧と同じ画面の中でピエール瀧以上の狂人になってしまえる人がいるのかと感動してしまった。そういえば『SCOOP!』でそういう役をやっていたか。
読んだり観たりしたもの (2020-08)
読んだもの
本棚見てわたしにしては今月結構読んだなとビックリしている。
いままでの拒絶か放棄から受容に変化した。どこかの書評で解脱と表現されていた気がするがそこまで立派なものではないと思う。
静かな物語だった。自分を登場させて言いたいこと言い尽したので自分の事殺したのかなと思ったが以後もウエルベックは続いているのでそんなことはないか。
映画は何度も観たが原作は読んだこと無かったので。映画は国家に対するニヒリズムみたいなものがあったがこちらは弱者がひたすら泥を被りまくる苦痛がこれでもかと広げられていた。山本七平を読みたくなる。
世界と引き換えに失われたものが完全に戻ってくる。それなら世界を投げ捨ててしまえばよい。破壊された世界で戻ってきたものと共に生きてゆこう。
同じく世界を賭したのに失なったものが戻ってくることはなかった『雲のむこう、約束の場所』のほうが500倍は好き(あわせて再読したのでどうしても比較してしまう)。
友人に勧められて。省エネを連呼する姿勢がどうしても鼻についてしまったのだがこれは馴れるのだと後の物語で学ぶのだった。周囲の熱におされるまま偶像に成り果て全ての泥を被って消える刹那に洒落を仕込める人間は詩人だ。
ひとは観たいものを観て演じたいものを演じる。
今回読んだ「古典部」シリーズの中で一番好き。手の届かない所にいる / あるものへの憧れ、期待、反省、様々な態度が溢れている。それらは手の届かなさを自覚する者だけが血を吐き苦しむ特権であり、ただただ解明するだけの安楽椅子探偵にはその血飛沫の熱を感じることはできない。
箸休めみたいな感じかなと思った。気楽に読んでしまった。だがとあるお話の心情の吐露でこの気楽さは吹き飛んだ。このお話だけは『クドリャフカ〜』と同じくらい好き。よく考えなくてもわたしはこのシリーズをミステリとして読んでいないことがわかる。
材料を全て並べ尽した上でイベントの終了を最後まで描かないのは『ボトルネック』っぽくていいなあと思った。
これは物語を次の段階へ進める為の清算だと思う。次が楽しみ。省エネ思想に背景が与えられたので『氷菓』も気持ち良く読めると思う。
いちおうミステリなやつを読んだ直後に読んだので失踪の解釈に別世界を持ち出すのはダメだろ、と思ってしまった、が別にミステリではないのでそれでもよかったのだった。あちらの世界は捨てざるを得なくなったものの集積場で、生きる以上は捨てなくてはならぬものがどうしても出てしまう。いつかは捨てなくてはならないものをいつまで持っていられるだろうか。
観たもの
カッコカッコ言いすぎてどんな数式だったかわからなくなった。ヤケクソの度合いもここまでくると笑うしかなくなってしまう。いつも夏に観る映画は『日本のいちばん長い日』と『激動の昭和史 沖縄決戦』だったのだが、これからはこれも加わった3本を観るようになるだろう。
読んだり観たりしたもの (2020-07)
読んだもの
青年団の顔役に主人公の恋人はメチャクチャにされて主人公は仇をとって自殺するんだろうなと思ってたら全く予期しない素敵な終わり方をしてしまい自分の汚さを堪能する破目になった。 ちなみにしばらくの間「ちょうそう」と読んでいたという恥を告白しておく。
飲み友達に勧められて読んだ。大好きになってしまった。 救済がグチャグチャにされて空虚に支配された人間が破滅を選ぶという流れは『虐殺器官』っぽいなと思った。破滅と大袈裟に書いたがこの物語の場合は自分自身の破滅で『虐殺器官』の場合は世界の破滅なのでディテールは違うのだが。
伊藤計劃だったら逆セカイ系とでも言いそう。ブリュノの物語がしょっぱいだけでオチに絡んでこないの悲惨すぎる。
途中まで淡々とした描写が続いてアレッらしくないな(上2作を読んだ時点での印象)と思っていたのだが「闘争領域」の拡大についての考察が始まって以後は切れ味の悪い刃物で何度もぶっ叩かれ続けながら心象が狂っていく感じになっていってすごかった。
おもしろい物語は平穏な人間を狂わせる。おもしろい物語は時代を超越する。しょっぱさが面白い物語のよい土壌になる。
観たもの
病身の妻を連れた浪人に狂人の匂いを感じたので観たのだが別に狂ってはおらずいたわりと暴力とがきちんと分かれて同居していただけだった。
読んだもの (2020-06)
もう今月は増えないと思うので6月終了まで1日強あるが書く。
時期柄。中世が舞台だと思っていたのだが思いっきり現代(WW2 以後という意味で)が舞台だったのでびっくりした。
横文字を使わず漢字が与える感触だけで SF をやるとこんなにおどろおどろしいものになるのか。と解説を読んで思った。
読んでる途中は『黒死館殺人事件』をグロテスクに煮詰めたらこんなふうになるんだろうかと考えていた。
言い方が悪いことは自覚しているがサイモン・シンのドキュメンタリー的なおもしろさがあった。昨今の疫病が身体をグチャグチャに「崩壊」させるようなものでなくてよかった……。
好き。全ての若者達に宣戦布告する、までやってくれるとは思わなかった。満州からの持ち帰り品で武装するのは『オールド・テロリスト』(こっちのほうが新しい作品だが)よろしくお約束の領域なのだな。
読んだもの (2020-05)
やっと読み終えた。結局誰も治ってなかった。営々と積み重ねてきた教養や省察が戦争の勃発と共に榴散弾で吹き飛んだんだろうなというところで終わってしまった。戦争に対してこの物語はあまりにも無力。
一部の人間の桁外れの異能さが物語の根幹を支えてしまっているのは虚構とはいえ少々脆弱すぎやしないかと思った。でも面白かった。
最高。読むモンティ・パイソン。
ハイテンションなコンピュータが音声と紙テープにハイテンションな言葉を出力し続ける事にクソと悪態をつくシーンでしばらく笑い続けた。
『虐殺器官』での言及で存在を知ってから数年越しに読んだ。
太宰や三島の戯曲を読んでも思ったのだが台詞とト書きのみだとわたしはうまく光景を想像できない程度の貧弱な想像力しか無いようだ。劇で観たいな。
読んだもの (2020-04)
5月ももう3日目になってしまった。
電車で行ったり来たりしている間と酒飲んでる間が主な読書時間で、昨今の情勢からその2つがなくなってしまった。こうなると私は本を読まんのだなということがわかった。積読が減らぬ。
混乱の時期に。焼酎と訳されている箇所の違和感のほうが大きかった。標本用アルコールってうまいのかな。
シュナップスと焼酎って違う物だと思ってたんだけど同じだったりするのですかね
— 之貞 (@ngsksdt) April 11, 2020
シュナップスのほうが焼酎より指す範囲が広いっぽいのでシュナップスを焼酎と訳すのはやっぱりちょっと違うのだと思う
— 之貞 (@ngsksdt) April 11, 2020
ちなみにこの後シュナップスを飲むようになった。シュタインヘーガーというやつのシュリヒテというのを飲んでいる。
"Trink ihn maerssig, aber regelmaerssig" と瓶に書いてあっておしゃれ。「常飲すれども痛飲するな」と意訳して悦にひたっている。
流行や時勢に流されず自分で考えて行動していきましょう、みたいなふうに読んだ。爪は剥がれると痛い。
とても面白かった。失敗した戦争の当事者が戦争をふりかえるのは老境に至って自分の死が見えてこないと難しいのかなと思った。事業の失敗でうける被害に国家の破滅と人命の消耗と国土の荒廃が加えられるので軍は企業よりも厳しい。