``一意な文字列''

雑多な事柄

読んだり観たりしたもの (2019-10)

今月前半は本棚から本を引っ張り出して読むということを続けていた。だいたい坂口安吾を読んでいた。『不良少年とキリスト』と『白痴』は何度読んでもよい。
でも結局以下のようになった。


観たもの

アヴァロン
ソ連戦車にはどうしてかこう人間をメチャクチャに引き潰して嬲るみたいなイメージがある。この映画でもそんな印象。

読んだもの

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)
『二流の人』が収録されていたので買った。でも読んでみたら『道鏡』のほうがよかった。
戦争がおわって文学をはじめる時に歴史に立脚しようと思ったのだろうか。

魂の駆動体 (ハヤカワ文庫JA)
買ったものと表紙が違う。読んでてゾワーッと鳥肌が立って多幸感に包まれる物語を久し振りに味わった。
ものをつくるのは楽しい。計画を立てるのは楽しい。楽しいことには魂が宿る。

『鳥は重力に抗って飛ぶのではない』についての感想

これで以下のように書いた:

ただテーマありきで文章を綴っているような印象が多々あり、『風立ちぬ』の批評についてはテーマにすりよせすぎている感があった。

これに続けてポロポロと印象を書いたが、もっとちゃんとわたし自身が得た感想を書いておくべきと思ったので記す。
『母性のディストピア I 接触篇』第3部『宮崎駿と「母性のユートピア」』を読んでいた際に書いたメモ(とは名ばかりで2日間分の日記)を基にしている。



注:
以下は『風立ちぬ』評である『鳥は重力に抗って飛ぶのではない』を読む前の内容

昨日から『母性のディストピア』という本を読んでいる。宮崎駿評があった。曰く『紅の豚』以降は少年像を代弁する少女の姿は失せ、男性性を支えて包む母たる女の役柄のキャラクタにシフトしていった。宮崎駿の描く「少年」は母の支えがあって始めて飛ぶことができる。この理屈から『風立ちぬ』を考えてみたい。
まず二郎は飛ばない。飛ぼうとはしたけれど挫折した。燃えて崩れて揉まれて奈緒子と出会う。忘れる。飛ぶものを作る段になり奈緒子と再開、奈緒子の「支え」により二郎は飛ぶものを作った。奈緒子は無くなり、作り出したものは破滅をもたらした。それでも奈緒子は生きろという。オワリ。
『母性のディストピア』の論理では奈緒子は死なので少女ではなく母たる女だ。ただ母の支えがあっても二郎は飛んでいない。二郎は飛ぶことそのものではなく、飛ぶものを下から見上げたり上から見下ろすばかりだ。自身が飛ぶのではなく、自身の夢を飛ばすものをつくっている。
この物語の中で母性のあるものとは二郎の母くらいしかいないのではと思う。抱擁する母もいないし立ち向かう父もいない。『もののけ姫』あたりまで『風立ちぬ』は論点を戻してしまっているのかもしれない。
風立ちぬ』は虚構ではなく現実(『母性のディストピア』でこれを表現する言葉が使われていたが忘れた)に近い立場から物語が描かれている。現実を触るとき宮崎駿は「生きろ」という。自分は生きねばならぬということをハナから信じてもいないのに。
二郎を包んでいた「母」とは美しさという概念であり、飛行機という「夢」なのかもしれないなと思った。二郎がみていたものは虚構だったのか。虚構に包まれ、美に飛び、国も愛するものも破滅させた。単なるニヒリストっぽい。



注:
以下は上の内容を書いた次の日に書いたもので、『風立ちぬ』評である『鳥は重力に抗って飛ぶのではない』を読んだ後の内容

『母性のディストピア宮崎駿章の『風立ちぬ』評は昨日の日記とは全然違った内容だった。
しかしカプロニを平和の側とみなして二郎のマチズモ指向とやらと対比するのは乱暴だ。カプロニは自身のそして二郎の夢をハッキリと呪われたものと評している。カプロニ初登場のシーンも「敵の街を焼きに行く」爆撃機の風景だし、家族やら職工の一族やらを乗せた大型機も爆撃機だ。
二郎の対立軸としてカプロニを置くのはズレでいて、やはり二郎がカプロニによって魅せられた「夢」にどう向き合うか、向き合ってきたか、向き合った結果どうなったかを描いた物語が『風立ちぬ』なのだと思う。奈緒子がその美しい時だけを二郎に観せることで母性の象徴となったというのは「美しい時」が宮崎駿の物語の中で「母」を示すものでは必ずしもないのではとも思う、が、母性の要素ではあったことは正しそう。



上の内容を踏まえて改めて『母性のディストピア』を読み直した結果、二郎は奈緒子の母性に因って飛んだのかという点については肯定ができそうだと思い直した。
二郎は美しい飛行機という夢が飛翔することで自身も飛ぶことができ、奈緒子に再会するまでは飛んでも墜落していたが奈緒子の支えによって悠々と飛び続けることができるようになった、という解釈ができるように思えた為だ。

カプロニと二郎については一方で上の内容から変化がない。二郎の抱いていた美しい夢は先人であるカプロニ曰く呪われた夢であり、カプロニはそれでも呪われた夢を目指すことを選んだ。二郎は呪われた夢を追うことには回答せず、ただ美しい飛行機を作るのだと答える。
かくてその美しい飛行機は奈緒子を死に誘い、国を滅ぼした。美しい飛行機達は一機も二郎の許に還ってくることはなく、空の彼方に消えた。
呪いによってズタズタにされた二郎はそれでも生きねばならない。

二郎が飛ぶことができるようになった帰結が奈緒子の死、国の滅亡、かつて抱いた夢が空の彼方に行ったきりとなる絶望という帰結になり、それでも生きろと言われるという破滅の物語であるという私的な解釈には、やはり以下から得に変化はない:

風立ちぬ』は母性のディストピアであるし、美麗な夢のディストピアでもある。

読んだり観たりしたもの (2019-09)

読んだもの

母性のディストピア I 接触篇 (ハヤカワ文庫JA)
母性のディストピア II 発動篇 (ハヤカワ文庫 JA ウ 3-3)
とても面白かった。取り上げられているアニメ作家でマトモに観たことがあるのは宮崎駿くらいしかないので他二者についてはそうなんだと思う程度にしかならなかったのは残念だが。
ただテーマありきで文章を綴っているような印象が多々あり、『風立ちぬ』の批評についてはテーマにすりよせすぎている感があった。カプロニ伯爵は平和の側に立つ者ではないし、二郎はそもそも飛んではいない、など。

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)
シミュレーションがシミュレーションでおわってしまいカタストロフが起きてしまった。

観たもの

ジャンゴ 繋がれざる者 (字幕版)
なんとなく観たら好きになってしまった。なぜかここ最近はこれを毎週1回は観ている。
多言語話者が言葉をクルクルと変えているのを見るのが好き。

レザボア・ドッグス(字幕版)
雑談シーンが長すぎてこれずっと続くのかなと不安になった。『デス・プルーフ』も観たいんだけどこれ以上に雑談シーンがあるみたいな様子なのでこわい。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド オリジナル・サウンドトラック
映画館で観た。フィクションが持つ力に全幅の信頼を置いていることが伝わる映画だった。ここまで信頼できるとフィクションはとても強力になる。

橋 [DVD]
友軍を殺しすぎてて恐しい。

読んだり見たりしたもの (2019-08)

8月31日は宿酔で一日中寝ていました。寝ている事しかできませんでした。
というわけで9月にはいってから8月を振り返る項目となりました。

読んだもの

書き換えられた聖書 (ちくま学芸文庫)
聖書の改変を扱うものなのだからまあ当然なのだが聖書の知識がないと面白さが足りないなあと思った。ただこの本を読んでしまうとどの『聖書』を読めばよいのかがわからなくなってしまう。

虚航船団 (新潮文庫)
読んでて疲れてしまった。酩酊してメチャメチャになってから読むと読みやすかった気がするのだがまあ酩酊していたときの記憶なのでそうでもないのかもしれない。

キャッチ=22〔新版〕(上) (ハヤカワepi文庫 ヘ)
キャッチ=22〔新版〕(下) (ハヤカワepi文庫 ヘ)
小説版モンティパイソンという感じがした。壊滅していた時系列が後半には正常に戻っていたことに解説を読むまで気付けなかった程度の読解しかできていなかったという事を付記しておく。

見たもの

ゼロ・ダーク・サーティ (字幕版)
プロパガンダとのことだがこの映画が何を宣伝してるのかがよくわからなかった。

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 (字幕版)
ウォーターゲート事件のほうが観たかった……。

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男(字幕版)
一度構築された世界観は滅んだとしても消えるわけではない。

ビューティフル・マインド (字幕版)
数学の天才という描写がどこでも構わず数式を書き散らかすみたいなのはどこも変わらんのだなと思った。

ブラッド・ダイヤモンド (字幕版)
暴力が通貨になってる世界は怖い。暴力が日常になってしまったこどもも怖い。暴力に蓋をするとカネになる。

読んだり観たりしたもの (2019-07)

読んだもの

鷲は飛び立った (ハヤカワ文庫NV)
フィクションなので前作の世界観がどうとかいう気持ちにもならず純粋に楽しめた。

死にゆく者への祈り (ハヤカワ文庫 NV 266)
これもまあ普通に。スクールバスを爆弾で吹っ飛ばしたくだりが途中からどこかにいってしまった気がする。

酔っぱらいに贈る言葉 (ちくま文庫)
大好き。飲酒するときは常に持参したい。

増補 普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊 (ちくま学芸文庫 (フ-42-1))
彼らも労働者であり、責務があった。虐殺という仕事。悲惨。

観たもの

宿酔で潰れる時間が多くなると観る映画が増えて便利。

雲のむこう、約束の場所
地続きにみえる日常の風景に突如戦車が出てくると興奮してしまう。
90式は日本の鉄道では横幅がありすぎて輸送できないということだがまあ北海道が共産圏に飲まれたということであちらの世界では戦後復興期に線路の幅を広げたということにしておいてあげましょう。

秒速5センチメートル
いままで観てなかっただけで実はとても好きな部類の物語なのだと思った。巧みな陳述が陳述で終わる哀しさ。

星を追う子ども
ごめんなさい、『となりのトトロ』『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』にナウシカ原作の要素をまぶしたものにしかみえませんでした。

言の葉の庭
これも好き。鉄道に対する執着を感じる。

ダークナイト (字幕版)
狂人をみまもるのはおもしろい。

ヒート (字幕版)
まあよくあるドンパチ映画。

The Negotiator (字幕版)
なにがなんでも証拠を隠滅してやるという強い心意気を感じた。

読んだり観たりしたもの (2019-06)

読んだもの

深夜プラス1〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)
読み終えたときはすごく面白かったなあと思ったはずなのだが今はもうあまり印象にのこってない。感想は鮮度のよいうちに書いておくべきだったな。

鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)
にわかで付け焼刃の知識でもドイツ側登場人物の格好とかが想像できたので楽しく読めた。半端な知識でも役に立つときもあるのだなと思った。

日本近代短篇小説選 昭和篇2 (岩波文庫)
『焼跡のイエス』を読みたくて買ったのだがまあそんなもんかという感じで終わってしまった……。

遠野物語・山の人生 (岩波文庫)
遠野物語』までは割合面白く読めたのだがそれ以降はうまく読めなくなってしまった。研究書を適切に読める能力がない。

観たもの

沈黙 -サイレンス-(字幕版)
登場人物たちが喋る英語がポルトガル語扱いだったことに途中まで気付かなかった。原作読了してるのに……。

読んだり観たりしたもの (2019-05)

5月分の内容だが5月末日は飲み屋で酩酊していたため書けなかった。そんなもんですよね。
5月分の内容だが6月1日(これを書いている日)までに摂取した内容を含んでいます。

読んだもの

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)
文明はかくも脆いが強い。今回は野蛮がすこし弱かったかしら。

後継者たち (ハヤカワepi文庫)
登場人物の知性と地の文の読み易さが連動するのかなり苦痛をおぼえる読書体験だった。

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
読んでいても面白いと思えず、まったく合わなかった。本当に悲しい。

全体主義の起原 2――帝国主義 【新版】
前書きでハイデッガーだかが書いてたように3巻目から読みはじめたほうがよかったと思ってきた。

観たやつ

この世界の片隅に
風立ちぬ』が生きねばならぬことを厳しく示すことに比較してこちらは生きねばならぬことを優しく促すものと感じた。
物語がどれだけ穏やかでも荒れても最終的に破滅が訪れることが舞台と背景からわかりきっているので、物語そのものとは違う緊張感が共にあった。

突撃 [DVD]
人間であることに絶望したけど人間の歌声を聴いて泣く人間をみてまだまだ人間も捨てたもんじゃないですね、という物語。

クワイエットルームにようこそ
笑えなければ沈黙するしかない - megamouthの葬列 を読んで観たいと思ったので観た。
娑婆にはおもしろい世界とおもしろくない世界の間に濁流の崖が残酷に横たわっている。